アーサー・C・クラーク『2001年宇宙の旅』

明けましておめでとうございます。

本年も日常生活に支障が出ない程度に更新したいと存じておりますので、当ブログを何卒よろしくお願いいたします。

正月はお陰様で実家に帰省してのんびり過ごさせていただきました。テレビを付ければ誰かが運営を支えている番組が進行しているように、この世に正月だろうと休めない仕事の多いことよ。自分もいつかはそっちに行くのでしょうか…o_0

さて、実家に帰省する時は買っといて結局読めなかった積読本を消化するに限る、ということで今回も何冊か持って行き読んで充実した時間を過ごしました。そして一番「これは読んでよかった!」と思えたのがアーサー・C・クラークの『2001年宇宙の旅』でした。

決定版 2001年宇宙の旅 (ハヤカワ文庫SF)

決定版 2001年宇宙の旅 (ハヤカワ文庫SF)

アーサー・C・クラークといえばSF小説の御大でハインラインアシモフと並ぶSF御三家として文学史に名を残す存在であり、そしてこの『2001年宇宙の旅』は彼の代表作の一つと言える作品。これは映画監督スタンリー・キューブリックがクラークに「宇宙全体における人間の立ち位置を決める作品を作りたい」との意向を示し、二人である程度共同で創作したはいいものの、諸事情があり最終的には映画と小説でそれぞれの特色が出てしまっているという作品であります。

物語は、原始時代の猿が縄張り争いのなかで驚異的進歩を遂げるところから始まる。そして人が宇宙に滞在することが当たり前になってしまった西暦2000年前後?において月面の地中(300万年前の地層!)から発掘されたモノリスの謎を解明するために、土星に飛んだ宇宙飛行士が観たものとは…!?というもの。

そもそもまずこの作品を読むに際して、私にある程度の先入観があったのは否めませんでした。1)『プラネテス』面白いし星新一ショートショートも最高だわーちょっと本格SFとかて出してみようかなwとか思って読んだ『幼年期の終わり』で完全に置いてけぼりにされたこと*1 2)そのため本当に最低限のSFしか読んでなくてSFに対する知識が不足してる感じがして不安 3)というかキューブリックの『2001年』訳わかんなくてつまんなかった、というあたりからすごーくこの作品に対してハードルを感じていました。

しかしながらこれを一度立ち読みして「最初にクラークによる当時の解説があるからもしかしたら解読できるようになるかも」と思い購入しといた訳ですが、読み終わった今だから言わせてもらえば、いやぁそん時の俺正しかった!本当に素晴らしい作品ですねこれは!

本作の面白さの肝は、人類が月に着陸する以前に人々が抱いていた宇宙のロマンを追体験できるところにあると思います。それこそ、本書の解説にあるようにスペースシャトルの飛び立ち方に現在との違いがあったりするのですが、むしろその方式だろうとクラークの豊富な知識をバックグラウンドにした描写が冴えていて、その飛び立ちの方が正しいんじゃないかというくらい説得力のあるものです。それのみならずとも全編を通じてクラークの理系の語り口と宇宙という未知の世界の風景が融合してえもいわれぬ体験ができます。文章から想像される宇宙船と木星とのランデヴーの情景の美しさといったらもう。「SFは文系が理系と出会い、理系が文系と出会う場だ」という言葉を見たことがありますが、まさしくその言葉通りの楽しさを提供してくれる作品です。

さて、このクラークの小説を読んだうえでキューブリックの映画をどう位置づけるのか?という問題が心の中でずっと浮かんでいます。史実が示す通り、映画は公開当時大評判で迎えられて今や歴史的な映画ランキングには必ず上位に入ってくる作品、本はSF作品の古典とも言えややもすれば「難解」と捉えられてしまう映画に対して明確な回答を示す存在として金字塔となっていると。映画は抽象性を上げることで解釈の余地を観客に与えているようですが、上記のとおり正直言って映画の方にはハマれなかった身としてはクラークの精緻な文章の方がだいぶ魅力的ではありました。映画を観て「ああ自分の一生を一気に観る表現ってどこにでもあるんだな*2」位にしか感じなかったもので…

恐らく一つの答えとしては、あの宇宙船の独特のデザインの質感を1960年代に構築し、それが今まで影響を与えているところにあるのかなと*3。しかしながらもう一度観てみないとわからない部分は多そう。うーむ。

あなたの人生の物語 (ハヤカワ文庫SF)

あなたの人生の物語 (ハヤカワ文庫SF)

去年ちょっと読んだSF短編集。表題の物語はクラーク的世界観が現代においても健在であることの証拠であるといえるかも。

*1:中学生とかでもなく、大学1年頃の話

*2:実際にはクラークの専売特許?

*3:月に囚われた男』とかそのまんま