森義隆監督『宇宙兄弟』

宇宙兄弟』観てまいりました。

We are 宇宙兄弟 VOL.06 (講談社 MOOK)

We are 宇宙兄弟 VOL.06 (講談社 MOOK)

職場の同期と終業時間が合ったので久々に他人と一緒にシネマで観ることに。因みにそんなに期待はしてなくてまぁ話題作だし映画ファンでなくても受けいいだろうし次の出勤日時の皆への話題にでもなればいいなぁ、と原作未読の身ながら思いつつ観たのですが、これが予想外の大当たりでした!原作の漫画は既に何巻も出ているらしいですが、それをコンパクトに纏めつつソツのない物語に仕上げていてやるなぁと。宇宙へ旅立つ人々の意志を素直に伝えてくる演出も成功していたのではないでしょうか。

幼いころから宇宙への夢を抱いていたムッタ(小栗旬)とヒビト(岡田将生)の兄弟。ヒビトはNASAの宇宙飛行士として選ばれたものの兄のムッタは会社をクビになるなど冴えない生活が続いていた。そんな折ムッタはヒビトがJAXAの宇宙飛行士試験に自分の書類を送ったことを知り、再び宇宙飛行士への夢を追い求めることに…というお話。

物語の中で特に秀逸だと感じたのは、兄のムッタが子供のころ「俺は宇宙へ行く!」と言ったはいいものの、その後徐々に夢を失っていく心の推移の表現です。「UFOを見た」と言うムッタに対し、小馬鹿にし川へ突き落して「嘘だったって言えよ」と迫るクラスメイト達。ここでは少年時代のいじめというフォーマットで展開されていますが、しかし人が他人を恐れて夢を失っていくってこういう感じだよなぁ、と心に響いてくるものがありました。

俳優陣ですが、小栗旬岡田将生の両名はかなり良かったのではないでしょうか。小栗旬についてはこれまでスマートな役回りをする人のイメージだったんですが、前回観た『キツツキと雨』での小心者の新人監督の演技で親近感を覚え,そしてこの泥臭いキャラクターの演技で幅の広さを見せつけられのですっかり彼の株が上がってしまいました。このまま下手すると今年一番良かったのは役者は小栗旬になりそう。岡田将生も日々人の自分に自信のある感じが出ていました。延々と「自分は試験に落ちた」と愚痴る兄に対して「つまんねえよ」の一言でなにも言えなくさせてしまうヘンな説得力は、『悪人』で見せた人を小馬鹿にした若者っぷりを彷彿とさせるところがありましたね。麻生久美子は、美人だしあとで原作を読んでみると成程ぴったりの役柄だなと思ったのですが、観ている最中はキャラの浮ついた感じを消化できてなくて不自然さが目についてしまったかな。久美子タンの神通力が減少したとか思いたくないので頑張ってほしいところです。その他吹越満さん等脇役もやるべきことをやっていて嬉しく、安心して鑑賞できました。

漫画『プラネテス』を読んだことをきっかけにSFの世界にちょこちょこ足を踏み入れるようになった私ですが、「気が付いたら宇宙に行けと」と心が叫んでいたというわけでもなく、子供のころから将来の夢はサラリーマンという夢のないガキでした。やや拙い部分を残しながらも(元アポロ11号の乗員だったバズ・オルドリンの演技も含めw)宇宙への憧れをストレートに伝えてくる演出はとても好感を持ちました。あとは最初のアーティスティックなオープニングがラストのシークエンスにつながっていく演出も心ニクい感じで、歴史上で人々が込めていった熱意を伝えてくれ、映画館を後にしても興奮がなかなか収まりませんでした。

宇宙への憧れとか割となしに育ってしまった私ですら、観終わった後「宇宙飛行士になりたい…」とこぼしてしまう位宇宙飛行のミッションを受ける最中の姿は魅力的です。特にスペースシャトルの発射場面は、映画館のサウンドシステムを生かし最大限の爆音をもって打ち上げの際の様子を再現してくれるため、臨場感が半端ではありません。一緒に観に行った同期はここで泣いた、と言っていましたが確かに打ち上げは開発者たち、引いては人類の一種の意志や祈りの尊さすら伝わってくるものでした。良作。


「我々は宇宙に行くのだ」これだけのスピーチができる人はなかなかおらんて…