押切蓮介『ハイスコアガール』
俺がまだ保育園にいた頃、一番上の兄がスーファミを買ってきてもらった。それがゲームとの初めての出会いだったと思う。
思えば家にあったスーファミのソフトは普通の家庭に比べれば変なのばっかりだった(ジェリーボーイとか)。ドラクエ5はあったのでそれを繰り返しやっていたので、RPGに関して言えば一番影響を受けたゲームだと思う。でも自分ちはなかなかゲームを買ってくれなくて*1、物持ちがいい友達をいつも羨ましがっていた。その頃は「友達の家に遊びに行く」イコールゲームをやりに行くことでしかなかった。
初めて自分のために買ってもらったゲームはスーファミのマリオカートだった。しばらく家で遊んでいたが、一番上の兄が勝手に友達に貸してそのまま借りパクされたままになっている。
兄貴たちに連れられてアーケードをずいぶん見学していた気がする。ワールドヒーローズ、ストⅡシリーズ、餓狼伝説、竜虎の拳、初期KOF、ソニックウィングス、その他1筐体に4つ詰まってて適当にやってたアーケードゲーム。そのあたりの映像の記憶がおぼろげながらある。兄貴がサムライスピリッツをナコルルでプレイしてるのを横目で見ていて、ガルフォードに真っ二つにされてトラウマになったりした。
小学2年の時にポケモン(赤・緑)が発売した。最初はそんなに興味がなかったけど、友達がやってるのをみたらすごくやりたくなってしまい親に泣き付いてゲームボーイごと買ってもらって、布団のなかでこそこそやったりした。通信ケーブルのある友達の家に押しかけたりして、ユリゲラーがいきなりフーディンになってテンションがあがったりした。
アーケード格闘にはまったのは初代マーブルVSカプコンで最後だったと思う。超必が割と簡単に出せたのが嬉しかった。当時たまたまゲーセンに遊びに来ていた真ん中の兄とキャラを一人ずつ分けながらやったのはいい思い出。
小学後半〜中学になるともっぱら64の時代だった。スマブラ、ゴールデンアイ、マリカー64、マリオテニス、マリパー。これらを友達の家で半日以上やってた記憶がある。
高校時代はゲームからは離れていて、ゲーセンに入って音ゲーをやるくらいしかゲームとは関わらなかった。しかしながら、ゲーセンのあまりの安全さに、かつていつ不良に絡まれるのかとビビりまくっていた時代をちょっと懐かしくも感じた。
大学で初めて一人暮らしを始めたのだけれど、すぐにホームシックになってしまった。そんな当時の自分を救ってくれたのが、ゲーセンにあったクイズマジックアカデミーだった。全国のプレイヤーとクイズに熱中するのはただただ楽しかったし、気心を許せる関わりを持てた感覚があった。以降、ゲーセンに月1万円ほど使う生活を半年ほど続ける羽目になった。
また、大学に入ってじっくりゲームに没頭できる環境を手に入れたこともあり、また浪人時代ゲームを自粛していた反動もあってか、結構な本数のゲームを買い深夜までやる癖が付いた。ただ、そもそもがヌルゲーマーなところもあったのでハードなゲームをやるのには向いていないことが改めて分かった。しかしそれでも戦場のヴァルキュリア、アヌビス、塊魂といった素晴らしいゲームに出会えたし、プレステやってて気が付いたら朝という体験もできた。
そして今社会人になって「あーゲームやる時間ねーなー」と半ばゲームを卒業しようかと思いつつも、アマゾンのショッピングカートにゲームソフトを十本単位で詰め込んでいる。
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以上、私の人生におけるゲーム史をまとめてみた次第です。わざわざこういうのを書く気になったのも、結構前からファンやってる押切蓮介氏の新作『ハイスコアガール』がとても素晴らしい快作だったからです。
ハイスコアガール(1) (ビッグガンガンコミックススーパー)
- 作者: 押切蓮介
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俺達スクールカースト底辺層出身のルサンチマンを、ゲームというタームを媒介にして昇華するという漫画です。押切先生の過去作『ピコピコ少年』は、ゲームとともに育ってきたといっても過言ではない、ファミコン世代である今の30歳代にとってのゲーム体験の原風景を描写した作品で、世代的にわずかに掠る自分にでも思い当たる節のあるようなもの(駄菓子屋のゲーム機等)の経験を通じて、世代特有のノスタルジックさを喚起させる素晴らしい作品でした。
- 作者: 押切蓮介
- 出版社/メーカー: 太田出版
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- メディア: 単行本
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しかしながら、その続編である『ピコピコ少年TURBO』には、そのゲームに対する作者の思い入れなりダンディズムが自家中毒的であり、昔のゲームへのロマンにやや固執しすぎている印象を受けました。読み終わった後「あーもうこの路線ではやんなさそうだなー。ネタも切れぎみっぽいし」と思ってしまったのも事実です。
- 作者: 押切蓮介
- 出版社/メーカー: 太田出版
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そしてその後『ハイスコアガール』がでたと知った時も、TURBOのノリなら今回はパスかなーと思いあんまり期待はしなかったですが、いざ読んでみたところ、『ピコピコ少年』に特徴的な押切氏のゲーム経験のバックグラウンドとその頃思い描いていた理想を素直に投影した、素敵なラブコメではないですか!と痛感し、読むのに気遅れしていたの過去の自分をグーで殴りたい気分になってしまいました。
主人公のハルオは文字通り勉強も体育もダメ小学生で、そんな彼の唯一の居場所はゲーセン。当時はアーケードのストⅡ全盛期で、対戦の台待ちがあったり、負けて気に入らないと筐体を蹴り飛ばす不良がいたりという時代。そんなゲーセンに入り浸るハルオがある日、何故かゲーセンにいた成績優秀その他すべてパーフェクトというクラスメート大野さんと対戦し…というお話。
主人公は間違いなく作者の投影そのものでしょう。『ピコピコ少年』での作者の少年期の性格そのまんまで、そのままキャラを代えても何の問題もないように見えます。また『でろでろ』でのネタの引用もちらほら。(バスで寄りかかられてドキドキするやつとか)すなわち「作者のかなりリアルな体験を基に作られた」という前提をもっても読んでもいいキャラだと思います。
しかしながらお金持ちのお嬢様で成績優秀でスポーツ万能という大野さんは、完全に架空のキャラです。何故なら、ギャルゲーにあるような「ああこんな女の子がいたらな…」というキャラであり、また冴えない小中時代を送っていた俺達が望んでいたような女の子そのものだからです。だからこんなの実在するわけない!いたら羨ましすぎる!
実在の過去の自分と理想の女の子とのラブコメ、というと結構危ないような響きになってきてしまいます(汗)しかしこの漫画の素晴らしいところは、昔自分たちの関心の中心だったゲームを媒介として、あの頃冴えなかった俺たちの魂に訴えかけるところにあります。はっきり言って後半の展開はファンタジー展開で実際にはありえないものですが、しかしそれでも感動してしまうのは、それがあの頃の自分たちが望んでいたものであり、ゲームというそれまでベタすぎて誰も手を付けなかった主題を通して得られたボンクラ的リアリティからの飛翔を感じることができるからです。ゲーム世代の「One Night Carnival」といってもいいようなもので、ファンタジーを通じて実際の世界では救われなかったボンクラ達の魂の供養を果たしているように感じました。
最後に至るまでの人物の感情表現なんかも地味に丁寧でとてもよかったです。というか次巻でまた新しい女の子が出てくるらしいので、それ読むまでは死ねないなーと思う所存でございます。そして俺だってまだまだピコピコ少年のままなんだぜ。
*1:FFはなかったので、初めてやったのは中学で友達に借りた10