マーティン・スコセッシ監督『ヒューゴの不思議な発明』

マーティン・スコセッシ監督『ヒューゴの不思議な発明』観てまいりました。

日頃からちょっとした暇を見つけてはちょこちょこ『タクシードライバー』を観るようにしている私からすれば神のような監督であるマーティン・スコセッシ監督の最新作ですので、見ないわけがないしとても心をワクワクさせて行きました。まぁまぁ良かったんじゃないかなと思います。

時計店を営む父親と二人で暮らしているヒューゴは、父親と一緒に機械を修理するのが大好き。しかしある日突然父親が火事により死んでしまい、ヒューゴは叔父に連れられてリヨン駅の中で時計修理をしつつ暮らすことを余儀なくされる。浮浪児として暮らしていく中で、万引きしてしまったことが縁でおもちゃ屋の店主のジョルジュ・メリエスとその養子イザベルと知り合う。メリエスの反感を買いながらもヒューゴはイザベルとは一緒に映画を観たりして仲良くなっていく。イザベルはハート型のカギを持っていたが、それはヒューゴの父親が遺した機械人形の最期のピースとなるものだった。果たしてヒューゴは機械人形に込められた謎を解くことができるのか!?というお話。

前評判では、これは映画中を通して映画史を学ぶ映画だ、という意見を目にしていたので一応はジョルジュ・メリエスの半生等を調べてから映画を観に行きました。しかしそんな事前の想像以上に映画史の黎明期の熱情をフューチャーした作品でした。映画作りに人生を捧げてきた人物に対するスコセッシ監督の敬意が伝わってきます。

その点で一番印象的だったのが、鉄道がこちらに向かって走ってくる、映画史の初期の映画が流れてくるシーンです。『シオタ駅への列車の到着』というリュミエール兄弟の作品らしいですが、「当時の観客たちはみんな列車がこっちに来ると思ってのけ反ってしまった」という実際の逸話が話されますが、この映画ではその映像を3D編集してさらにリアルに列車がこちらに来る様を再現しています。そして今映画を観ている我々ものげぞりそうになってしまう!普段上記の逸話を「そんな馬鹿な」と心の内で思っている私も、3Dという技術を通して当時の人々と同じ行動をとり、あああの時代ってこんな風だったんだなと感じることができました。
この映画は全体的に3D編集が大々的にされており、もはやスクリーン上に映し出された「映画」とは全く別物の感すらあるのですが、その中でも特にこの部分の3D演出には間違いなくスコセッシ監督の意志があると思いました。

つまりこの映画は、映画を始めとするモノつくりに熱情を捧げることの素晴らしさをテーマとしており、1930年代の時代状況を再現しかつ3Dという最新の技術を用いて映画を作り観客の前に新しく現前することで我々をまた驚かせる。そうすることで映画の歴史性というものを正しく再評価しようとするスコセッシ監督の試みであると思われます。そういった面からして、アカデミー賞にノミネートされたのは納得のいくところです。

しかしながら、ちょっと物語としては物足りない部分が多かった、というのも正直な感想。具体的には、まずヒューゴのキャラ描写に違和感を感じました。メリエスの店で万引きを働いて捕まって大事なノートを没収されると「ノートを返せ」の一点張りなとことか、これちょっとアスp…とまではいかないにしろ、ちょっとキャラクターとしては強引だよなぁ、と感じてしまい共感できなかったのは事実です。まぁスコセッシ監督の過去作の『レイジング・ブル』や『グッドフェローズ』等に出てくる身勝手男のDNAが受け継がれているといえばそれまでですが…

それに即して、クロエ・グレース・モレッツのイザベルもキャラが薄いように感じました。私が観たのは「3D+吹き替え版」だったのですが、イザベル役の声がちょっと子供っぽさを前面に押し出しすぎていた印象を受けてしまい、この映画では主人公の姉のような存在としてあるイザベルとはちょっとチグハグな感じでした。また、イザベルの行動も二言目には「冒険って素敵!」で片づけてしまい、主人公の突飛な行動を特に考えもせず受け入れてしまっているように見えて微妙と思いました。『キック・アス』のクロエのイメージを引きずってしまっているのかな…この二人の演技及びサーシャ・バロン・コーエンの戯曲的な悪役も含めて何だか絵本の域を飛び越えてないなーという感想を持たざるを得ませんでした。児童向け原作をベースとしつつも、大人も共感でき、ともすれば涙してしまうような深い歴史ものを勝手に想定していた自分からすればやや拍子抜け。

しかし、歴史を越えてものつくりに情熱を傾ける人に対するリスペクトを捧げる、というスコセッシの思いは十分に表されているといってよいでしょう。冒頭からの、複雑かつ大規模に動く歯車に象徴的なように、この映画で描かれる「技術」は、とても魅力的に描かれています。そして3D技術をもってまた新しく世界を構築したことで、その精神は間違いなくこの映画にも受け継がれたと言えるでしょう。

映画史において大きな進歩を行ったジョルジュ・メリアスが元々はマジシャンだった、というのは個人的にはとても分かる話です。何故なら、そのどちらも「人を驚かす、人を楽しませる」という意志に基づいたものだから。もしかしたら、このテーマはむしろニコニコ動画で無償の作品提供が膨大に行われているような状況の現在の方が理解しやすいものであるかもしれません。最近では「人々の笑顔のために」といった類の言葉は多用されすぎていてもはや建前にしかなっていないなと感じることも多いです。しかしこの映画はピュアすぎるほどストレートにその良さを表しているので、そのテーゼを信頼してもいいのかな、という気にさせてくれます。



ダンサー・イン・ザ・ダーク』『アンチクライスト』のドS映画でおなじみラース・フォン・トリアー監督が、他の監督にその監督の過去作を5回再編集させ、その5編の偏移を楽しむというシリーズ「The five obstruction」。次回は(何故か)スコセッシ監督で作品は(何故か)『タクシードライバー』だそうです*1。『ヒューゴ』高評価からするに、おそらくこれ1編は3Dあるで多分…!*2

映画「ヒューゴの不思議な発明」感想〜スコセッシから子供たちへのメッセージ | THE MAINSTREAM
すいません、超参考にさせていただきました。

*1:ソース→http://eiga.com/news/20110516/2/

*2:あるいは『沈黙』3Dとか?