デヴィッド・フィンチャー監督『ドラゴン・タトゥーの女』
・大丈夫。デヴィッド・フィンチャーの監督作品だよ。
デヴィッド・フィンチャー監督の最新作『ドラゴン・タトゥーの女』観てきました。
- 出版社/メーカー: ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
- 発売日: 2012/06/13
- メディア: DVD
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大企業の不正を告発する記事を書いたことで名誉棄損の裁判を受け,多額の賠償金支払いを命じられたミカエル(ダニエル・クレイグ)は、大企業グループの前会長から多額の報酬と引き換えに、40年前に行方不明となった彼の孫娘リスベットの調査を依頼される。調査を進めるに従って助手として参加するようになった、パンクファッションに身を包んだ女性リスベット(ルーニー・マーラ)とともに事件を調べていくが…というお話。
全編に渡ってフィンチャーの職人芸ともいえる映像に圧倒されます。ダニエル・クレイグはそのままでかっこいいしルーニー・マーラの役作りは完璧だしで世界観ががっちり構築されてましたね。フィンチャー監督は『ゾディアック』以降好調を続けているようで*1、才能に愛されてる幸せ者だなと思いました。
世界中で大ベストセラーの原作の映画化、つまり脚本が自前でないにも関わらず,フィンチャーの過去作品を思わせるシーンが結構あったのが印象的でした。リスベットが過去の猟奇殺人の写真をパラパラめくってミカエルに見せるところなんかは『セブン』の「怠惰」を想像させますし、ベトつくかのような二人のベッドシーンは『ファイト・クラブ』の感じがしました。
その中でも際立って特徴的なのは『ソーシャル・ネットワーク』の要素でしょう。ところどころ早口になったりキビキビ動くところが見受けられました。トレント・レズナー&アッティカス・ロス組のデジタル感の強い音楽も含めて、フィンチャー結構前作引きずってる感がありましたね。
前作『ソーシャル・ネットワーク』はデジタル世代における人間関係の不安さ、というものをほぼ異論の出しようのないレベルで描写した作品でした。実際の生活をネット上において構築するサービスへの、自らの身体を機械化することにも等しい不安を背景にしつつ、どうしようもないギークの大学生活から起業を通じて社会という新しい世界へ自らを投げ入れたときのアンバランスさを、今の感覚に最大限沿うようにして表現されたものです。そしてレズナー&ロス組のインダストリアルさを前面に出した音楽が雰囲気をとてもよく出していたものです。
しかし今回のストーリーは、サスペンスの内でもかなり王道と呼ぶべきもので、純粋に推理や物語の展開なんかを楽しむものでした。また、リスベットがヘビーMacユーザーといえども物語の設定は"pre-iPhone technology"の時代にしたとフィンチャーが証言している*2通り最新型の情報技術が反映されてはいません*3。映像と音楽、『ソーシャル・ネットワーク』では見事な整合性をみせていた両者ですが、ここではやや音楽の特性が出過ぎな感じも受けました。周辺から徐々に水位を上げてくるかのような音像で観客を神経質にさせたりする音使いは今作も健在ながら、少し食傷気味にもなってしまいました。まぁ私がこれまでの人生でナインインチを聴きすぎてしまっているだけかもしれませんが…*4
あと、リスベットのキャラ設定が「人嫌いの美人天才ハッカー、しかし主人公には好意的(そして最後はとてもナイーヴな乙女!)」という、下手すると「何そのラノベwテラワロスw」て言われかねないぐらいギリギリなものでしたが、ここはルーニー・マーラのキャラのソリッドさのおかげで助かってる感じでした。彼女頑張ってたなー。
ややもすると、上述の微妙な点があるおかげで必ずしも観客全員に受ける作品ではなく、想像していた以上に観る人を選ぶ映画のように思いました。ただ、登場人物が多かったりして難解になりかねない物語をうまく展開していく見事さや人物描写のうまさなど、フィンチャー監督の世界感が間違いなく体感できる映画でした。
でもカップルで観ちゃだめだよ!(特殊な人間関係に理解のある人達は除く)
オープニングも素晴らしかったです。あれ見てコレ思い出したっていうとどんだけ昔なんだよと突っ込まれそうだけど、この映像を見たことある人ならば心の奥底ではみんなそう思ってるはずだ…
*1:個人的な感想ですが。フィンチャーファンの中でも好みの作品は分かれるしね…
*2:http://collider.com/david-fincher-interview-social-network-girl-with-dragon-tattoo/67432/?_r=true
*3:iPod/ipadは某国際スパイも御用達 http://d.hatena.ne.jp/noman29/20120108/1326028300
*4:NINのTシャツを着ている人が出てきましたね