エドガー・ライト監督『スコット・ピルグリムVS.邪悪な元カレ軍団』

DVDにて鑑賞しました。内容自体も革新的だし、この映画自身の出自を考えてみてもとても面白い映画だと思います。

売れないバンドのべーシストである主人公が、ある日図書館で見かけた奇抜な髪の色をした女の子に一目惚れ。そして付き合っていた中国系の女の子を振ってまで彼女と付き合う様になるが、しかし彼女と付き合うには一癖も二癖もある七人の元カレ軍団と闘わねばならないのだった…というお話。

とにかく一番に言及されるべきは日本のゲーム・アニメ文化の影響を色濃く感じるという所でしょう。初っ端からゲームボーイよろしく「UNIVERSAL」のロゴと音楽が8bitでアレンジされているあたりおっと思わせられますが、その後もゼルダの伝説の謎を解いた時の効果音が出てきたり、主人公が「FF4のベースラインだ」とおもむろに演奏し始めたり、ダンスダンスレボリューションによく似た忍者ゲームをゲーセンでやってたり*1してます。極めつけは元カレ軍団との戦いが完全に格ゲーのノリで構成されていたり。空とびまくりーのCG使いまくりーの挙句の果てには倒した瞬間に相手がコインに変わるという…*2その表現が『ホット・ファズ』等でおなじみサクサク進む独特の編集センスをもつエドガー・ライト監督の手にかかればさらに加速していき、この上なく面白い映像になります。

重要なのはこういう映画が出来たことそれ自体かもしれません。スーファミのゲームをやって育ったことを前提として映画で表現をしているということは、それだけターゲットとするその世代の層が無視できないほど厚くなってきたということではないでしょうか。また、どれだけ戦っても主人公には傷が一切付かず血も流さない、相手を倒したとなってもそれは死とかではなくコインに変化するという世界設定が、「アリ」と感じられてしまう。このことは、常識感が異なる映画の世界においてもゲーム的な感覚をもちこむことが可能になる位今日においてその文化の影響が出てきた、ということの証明だとおもいます。

さて、英語のウィキぺディアを見てみましたら、原作者にこんな記述が。

O'Malley wanted to write a shōnen-style comic book series, but initially he had only read one series, Ranma 1/2;(中略)O'Malley gained inspiration from the book Even a Monkey Can Draw Manga by Koji Aihara and Kentaro Takekuma.
Scott Pilgrim - Wikipedia, the free encyclopedia http://bit.ly/qrvVB1

つまり原作からして既に日本のコミックの影響を受けていたわけで、それが映画となり日本に逆輸入されてきた、という現象がここでは起きているのです。最近結構過激な洋ゲーなんぞをやり始めて「やっぱアメリカはちがうなー」とぼんやり感じてはおりましたが、その一方でこういう和モノな流れもあるということが確認できて良かったです。

あと、やっぱり主人公がモテまくっているというのがねぇ。ヒロイン、18歳の女の子、人気バンドのボーカルとなった元カノ、そしてドラムの女の子と身近な子とことごとく関係があるというのは、特に何か能力が秀でている訳では無いが女の子たちが言い寄って来るギャルゲーなんかの影響を感じ、大分現代っぽいなーと思いました。そうだよね、パッとしない人間でもやっぱりラクしてモテたいよね。うんうん。

あと、気になったのが主人公のマイケル・セラですね。『スーパーバッド』は大好きな映画ですし、そこに主演していた三人組はそこそこ頑張っているようなので全力応援していきたいと思っています。その中でもマイケル・セラは出世頭ですし今回も頼りがいのない現代っ子を好演しているのですが、しかし「またこういう役か」と思ってしまったのは事実。もうちょっと幅広い役柄をやって息の長い活動をしてほしいですね。ヒロイン役の子はなかなかだったんじゃないでしょうか。割と遊んでいながらもちょっと疲れちゃった女の子感が出ていていい感じでした。ひたすら暴言を吐くメガネの女の子も最高。あとは、某まとめサイトでみた、すっかり落ちぶれてしまったホームアローンの子役の人が出てる!と思って興奮しましたが実際には弟でした(笑)でもいい役でしたね。

おそらくこの映画がある種のリトマス紙となることは確実でしょう。この作品には賛否両論が寄せられているようですが、それはゲームの感覚が「アリだ」と感じる世代かそうでないかという違いです。ストーリーはラブコメディとして目新しいことをやっているわけではないので、これを受け入れるかそうでないかで今後の映画界が進む道(の傍流)が決まるのではないかなと思っています。

そうそう、音楽はレディオヘッドのプロデュースでおなじみナイジェル・ゴッドリッチだよ!そのせいか主人公のバンドの曲とか無駄にかっこいいよ!最初名前みた時目を疑ったけどな!

スコット・ピルグリム&インフィニット・サッドネス

スコット・ピルグリム&インフィニット・サッドネス

も、萌え絵だ…

*1:俺もあんな風に彼女とやりたい…

*2:しかしベースバトルは地味だった…