大根仁監督『モテキ』

・21世紀のサブカルクソ野郎たちへ

モテキ』観てまいりましたー。原作も未読、テレビドラマもちょいちょい観てたっていうぐらいしか予備知識は無かったんですがそれでもなかなか楽しめました。

派遣社員として働く30代の非モテ男子が突然女がモテモテになる…というお話。ハイ物語の短い説明終わり。

何というか、まず言いたいことは、まず前半がとても作り手側の悪意を感じるものだったということです。主人公は前述の通り30代の非モテということですが、それだけではなくさらに重大な要素としてロック等の「サブカル好き」という設定がなされています。映画を観る前の前情報として「ミュージシャンが多数出演」ということを知っていたので「あー要するにヴィレッジヴァンガードに行く層みたいなのを狙った感じなんでしょ」とちょっと構えて行ってしまったのですが観てみると全く違うことが分かりました。というか、俺みたいな、やや90年代〜00年代始めの音楽と共に成長して*1ややマニアックであることを内心誇りにしているような非生産的サブカルオタクを狙い撃ちしている表現が目につきました。

「ほらほらフェス一人で参加してそんでカップル何かが目につくと内心で『死ね!』とか言って鬱憤晴らしてるんだろ?そんでそんな自分も嫌いじゃないとか思ってんだろ?」「知識だけはあるから、後ろに貼られてるdipのポスターとか,rabbit in your headrightのパロディとか気づいちゃうんだろ?」「というか文化に対して常に受け身で過ごしてきたから搾取されてる事に気付かないで、今大した生活できてないんだろ?」という作り手側の意図がびんびんに伝わってきました。ああその通りだよバーカ!ほっといてくれ!何でマルチメディア体制で大勢のミュージシャンとか実際のサービスとか使って弱い者いじめするんだよもう…

この映画の一つのメッセージとしては、単なるサブカル好きを脱しろ、というのがあるかもしれません。とにかく前半を通してオタク(アキバ系でない)を小馬鹿にしまくる*2。その演出は「うわーわかるわかるぅ」や「うっはこれなんて俺w」という内輪受けを狙ったものというよりかは、お前らの言動は客観的にみるとこんなにもキモイんだ、といっているように受け取りました。ぐちぐち言うことでキャラを確立していてもそれは何の解決にもなっていないと。そしてそんな主人公が悩んで泥だらけになりながらもリア充を代表するかのような相手から恋人を奪い取ることを選択する、そんな流れでまとめたんじゃないかなーと思います。

ただ、そこまで出来のいい作品では無いかもしれません。なかなか恋人とならない相手に虚勢を張ってしまうことはありえますが、しかしながらあの主人公の行動は不可解でした。あまりに唐突で観ていて”?”となってしまったの事実。またカラオケ風演出も不自然ではないけれどもそこまで効果を上げていたかというと微妙。そして何より麻生久美子の結末だよー!何なんだあれ。感じの悪い上司に抱かれて失恋を忘れて前向きに進もう!とか現実にはあり得るにしてもなんだかなぁ、と思ってしまう*3。というかあの状況だったら9:1で麻生久美子だろう!あんな風に振る意味がわからない。全然分からない。マジで分からない。また、道路での麻生久美子の怪演は映画館に居ながら心がヒヤリとした瞬間でした。いやー普段ヤンデレ動画とかみてるけど、実際心を壊した人ってあんな風になるんだな。映画館の席に居ながらただただ戦慄することしかできませんでした。女優魂*4

全体的には、音楽業界が総出で協力してる割にはそこまでシーンの力を感じるものではなかったのが痛いかもしれません。現実のミュージシャンやネット会社が表われては物語を支えているのですが、最後「今夜はブギーバック」でエンドロールをしたようにどことなく懐古的な雰囲気を全体的に感じてしまったところがあります。唯一勢いを感じたのが序盤の●●●●●●●とのダンスなんですが、それ以降はやや昔の音楽を中心にフューチャーしているところにそれ以上のカルチャーを産み出せていない現状がこの映画に暗い影を落としているような印象を受けました。実質後半失速してたしな…

*1:自分はどちらかというとそれを後追いで聴いていた世代。高校の頃にくるり『アンテナ』が出た世代です

*2:ナタリーとかすげー感じ悪い業界人ばっかりの会社みたいに映ってたけど大丈夫なのか。俺ここもう見ないとか思っちゃったぞ

*3:ノルウェイの森への皮肉かと思ってしまった

*4:しかし真木よう子仲里依紗はほぼ空気だったな