デヴィッド・バーン『ライド・ライズ・ロウアー』
ストップ・ストッピング・メイキング・センス!
ここ1年で一番ハマっているグループがトーキング・ヘッズなのですが、そのトーキング・ヘッズのフロントマンであったデヴィッド・バーンのライヴのコンサート上映があるというのを聞きそれじゃあ是非みてみようということで渋谷アップリンクにて観てまいりました。
【日本語字幕入・日本版】ライド・ライズ・ロウアー/デヴィッド・バーン [DVD]
- 出版社/メーカー: ヤマハミュージックアンドビジュアルズ
- 発売日: 2011/06/22
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トーキング・ヘッズと言えば70年代半ばから80年代にかけて活躍したグループで、パンクの聖地であるCBGBでライブをしたり、伝説的バンドのテレビジョンと対バン(!)したりとそのルーツをパンクロックにもちながらも次第にその音楽性をワールドミュージックに移行していき、アーティスティックでありつつ成功を収めたバンドです。ファンク・ミュージックの影響やパーカッションを全面的に出したその音は、ポップでありながらもアートロックの可能性を広げたとして高い評価を受けております。
全盛期の活躍に比べると解散していた90年代はそこまで日の目を見ることはなかったように感じますが、2004年にフランツ・フェルディナンドが出てきた辺りから現在のダーティ・プロジェクターズやアーケイド・ファイアまで数多くのバンドに影響を与え、今やシーンの影のキーとなっているバンドだとすら言えます。
さて、トーキング・ヘッズの代表作といえば、各オリジナルアルバムより『ストップ・メイキング・センス』を挙げる人も多いです。
Stop Making Sense [Blu-ray] [Import]
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『羊たちの沈黙』のジョナサン・デミ監督によるバンドのドキュメンタリーです。*1最初にバーンが一人で出てきて歌い、その後どんどんライブステージを構築し大がかりなライトアップなどを加えて一つのライブを創っていく様をリアルタイムで見せていく作品で、まさに「クリエイティヴ」というものをそのまま現前したかのような瞬間を体感できる素晴らしい映像作品です。
その映像をアホかという程観た私ですが、今回の作品に関してはまぁでもバーン爺さんも歳取ってるしそれなりのもんにでいいかな、と思いきやこれが「ストップ・メイキング・センス2011版」と言っていいんじゃないか?といってもいいくらい過去作と同じ熱量を感じることが出来る映像でした。いまだに音楽のみならず視覚を含めた全体的な興奮を得ることの素晴らしさたるや!
映像は一曲ライブをやる毎にバーンをはじめとする関係者のインタビューが挟まれる形式。『ストップ・メイキング・センス』に比べてじっくりライブを体感していくという感じです。そして曲は主にバーンとヘッズ時代から関わりのあるブライアン・イーノとの共作『エブリシング・ザット・ハプンス・ウィル・ハプン・トゥデイ』とトーキングヘッズ時代の代表曲が交互に挟まれる構成。つまり最新の穏やかな曲と尖った精神性を感じさせるヘッズの曲が次々と繰り出されるわけですが、オペラのように朗々と歌われる曲と無国籍反復リズムのカオティックな曲両方とも乗りこなして見せるバーンがとにかくカッコイイ。ワールドミュージックを経て大らかな眼差しで多様な音楽を奏でているバーン卿の姿は一つの理想です。
個人的には「ロード・トゥ・ノーホエア」が心に沁みた。人生不安に思うこともあるけど俺たちゃ目的地のない旅の最中なんだ!一緒に行こうぜ!と。そうそう、俺も確かにトーキング・ヘッズという船に乗っていたんだよなとじんわり来た瞬間がそこに。
この映像を通じて見えてくるのは、壮齢となろうとも未だにロックショーというものを再構築し新しいものを創ろうと試みるバーンの姿です。ギターを持ちながらダンサーと一緒に踊ったり、時にはスカートみたいな衣装を着る(!)ように常に普通ではないライブを行っています。それは、人々に新しい世界を体感してもらいたいというバーンのあくまで素直な姿勢の表れだと思います。奇人と評されることもあるバーンですがしかしアーティストとして見た場合これほど活動の姿勢が一貫している人もいない気がします。それが今の若い世代への支持に繋がっているとも。
自分が実際に経験してきた中で「クリエイティヴ」さを一番感じていたのは、それまでの音源をアレンジしまくってスリーピースとは思えないほどのエネルギーをライブで爆発させていた頃のモーサム・トーンベンダーなのですが、同じ様なことを既にやっている人がいたんだなぁと。「アーティスト」と呼ばれる人ってそれまで積み上げてきたものをまた崩して一から始めるくらいの努力をしてちゃんと結果を出す人達なんだな、と感心しました。しかし音楽が持つ熱をそのまま伝えようと未だに活動しているデヴィッド・バーンをみると敬意を払わずにはいられませんね。