宮崎吾朗監督『コクリコ坂から』

コクリコ坂から』観てまいりました。この作品の話をする前に、まず宮崎吾朗監督の前作、『ゲド戦記』が何故ダメだったのかについて考えてみたいと思います。そうすることによって、我々はより多くの情報を得られると期待できるであろうから*1

ゲド戦記 [DVD]

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主に私が金曜ロードショーで『ゲド戦記』を観ていて「金返せ!」と思った点は二つ。
①声優が棒
私は特に声優フリークというわけではないのですが、それにしてもこれはねぇ…と思ったのでした。全員ぎこちないったらありゃしない。考え事しながら喋ってんのか?と思うほどに台詞に生命感がなくて嫌になったのでした。いや別に声優がプロでなくてもいい作品はあるんですけどね。『カラフル』とかさ。
②ストーリー及び登場人物が厨二病
観てて一番耐えられなかった点がコレ。何かこう、「キャラクターとは、物語とはこうあるべきなんだー!」という意気込みは伝わってくるんだけど、そのすべてが頭でっかちというか肩に力入り過ぎというか形式から入り過ぎというか。主人公らしい主人公、ヒロインらしいヒロイン、味方のおばさんらしい味方のおばさん、そして結末らしい結末、その全部が結論ありきで動いている感じがして、そして青臭い。

以上二つの点から、私は『ゲド戦記』を「まるで有名作品の同人誌みたいな作品だなぁ」とずっと思っていました。「自分はこういうのがしたいんだー!」というのはむしろびんびんに感じるんだけど、いかんせん表現技術が未熟だから正直観てて楽しくない。ジブリの画のクオリティで監督の自己満足をみせられているかのようでした。まぁ悪い人では無いんだろうけど。

で、今回の『コクリコ坂から』ですね。

いや良かった!観終わった後の爽快感でいえば間違いなくアリエッティ以上と断言できます。結論から言えば、元コンサルのゴロー監督って、無駄に神話とか大風呂敷広げるよりも、こういうエンタメ作品のが得意分野なんじゃないか?と思いました。全体的に、力を使うべき所に使うことで全体的に過不足無くストーリーを進めていくことに成功しています。

この映画の白眉は何といっても昭和の横浜の世界をそのまま構築してしまったところでしょう。『千と千尋』も監督の「こんな街があったら冒険してみたい」という思いが伝わってくるかのような雑多な街が舞台でしたが、今回も映像に込められている街の情報量が異常。漁師町の商店街や当時のビル街が圧倒的でかつ緻密なまでに再現されていてそこで生活していた人々の息遣いが聞こえてくるかのよう。「街」の存在感があるおかげで登場人物に感情移入しやすくなっていました。ホントスクリーンを通して心奪われまくり。

上で挙げた欠点についても、
①全員全く違和感がありませんでした。繊細な感情表現、素晴らしかったと思います。特に主人公の母役の風吹ジュンの声には母性を湛えた優しさを感じました。はみだし刑事のころから気になってるけど、あの人実はとんでもなくない?
②気にならない。むしろそれぞれのキャラの行動が世界観と同様よく練られていて無理が無かった。あー高校の頃ってこういうこと思ってたよなー&こういう人間関係をだったらよかったと思ってたよなーと自然に感じさせてくれます。ただしメガネテメーは駄目だ。

と、それぞれ解決しており、ゴロー監督に成長が観られるといえるでしょう。前日に『ゲド戦記』をやっていたのでまた懲りもせず観て「やっぱり駄目だ」と思ったのですが、しかしそのあとでこれを観ると「ああゴロー監督頑張ったね」とホクホクした気持ちになることができます。*2

ただ、これを観る前に「これは『耳をすませば』を強く意識している」との情報を耳にしていたのですが、正直言ってそこまでのものでは無いです。膨大な情報量を投入した昭和の横浜の風景は心を躍らせてくれますが、しかし「こんなのメロドラマだよな」とCMでも言われてる通り(?)エンタメの域を超えるものではないなーと。付き合った経験のない男子学生には劇薬的ですらあった切なさをもつ耳すまから比べれば、途中で描かれる二人の危機も含めて、そこらへんの恋愛映画と変わるものはあまりない。ジブリがかなり日常を強調する作品に近づいてきたという印象。面白かったものの、ジブリがあくまでフツーの恋愛ものをやる意味が果たしてあるのか?と考えてしまう所もあります。しかし王道的な恋愛ものとしては佳作と言っていいほどの普遍性を手に入れているともいえますが。

思想的な面で言ってしまうと内容がほぼ無いといってよい恋愛エンターテイメントを創っていていいのかよスタジオジブリ!と言いたくなる気持ちも無くはないのですが、しかし考えてみるとハヤオ監督はすでに頭の中がポニョだしなぁ…とにかくゴロー監督の成長ぶりが十分に窺えたので、次はもうちょっと前に進んで思想的な面も取り入れた上で、またあの頃のスタジオジブリ作品に並ぶ、映像を通じて俺たちの心を根こそぎ持っていくかのような作品を作って欲しいぜ!と期待させてくれる映画でした。

電脳コイル Blu-ray Disc Box

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関係ないけど最近「電脳コイルって実は科学技術嫌いの宮崎駿監督へのネット世代からの回答なんじゃね?」ととみに考えるようになった。そしてブルーレイボックスが今度出るので再評価されるといいなぁ。まぁ俺DVD限定版集めるの苦労したけど!限定版集めるの苦労したけど!限定版集めるのすんげー苦労したけど!

*1:哲学の論文っぽい言い回しをしてみました

*2:むしろこれを狙ったのか日テレ?