Thurston Moore『demolished thoughts』
Demolished Thoughts [輸入盤CD] (OLE9532)
- アーティスト: Thurston Moore,サーストン・ムーア
- 出版社/メーカー: MATADOR
- 発売日: 2011/05/24
- メディア: CD
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驚くべきことに?全編を通してほとんどノイズが聴こえてきません!ソニック・ユースはノイズの帝王として80年代のインディーロック界にその名を轟かせ、ニルヴァーナ等に影響を与えた後にも独特の不協和音を基調としたノイジーなロック作品を作り続けてきたバンドです。そしてサーストンはソロでも、いやむしろ『Psychic hearts』等ではバンドよりもコアな前衛的サウンド世界を表現し続けててきた音楽家です。
しかし前作『Trees〜』では半分程度ノイジーなギターこそ入っているものの、基調となっているのはフォーキーなサウンドであり、ステージ上で爆音ノイズを撒き散らしインディーキッズをビビらせるパンクロッカーの姿はそこには無く、シンガーソングライターよろしく弾き語るサーストンの姿のみが確認できるのみでした。
代表作『Daydream Nation』等で若者のとんがった姿勢を示すかのように「十代の革命だ」と攻撃的な音に依拠しながらしかしサラリと主張していた彼の声は、元々の素養かそれとも年月がそうさせたのかは分かりませんが、『Trees〜』ではとても優しさを感じさせるものとなっておりました。また音の面でも、すっとは馴染みにくいアコースティックギターの音を使用することで、しなやかな繊細さを表すことに成功していたと思います。
本作もそういった前作の流れをそのまま受け継ぐものであり、休日の公園の一角が似合いそうな、音の中に陽光の成分を感じさせるかのようなギターと、囁くような歌い方で愛を歌い上げるところがまたいいです。
さて本作、ベックによるプロデュースと聴いた時、サーストンの前作『Trees outside the academy』のイメージとベックの『sea change』のあいのこみたいな作風になるのかなーと何となく思っていました。個人的な思い出になりますが、シーチェンジは高校時代良く聴いていた作品でして、あのひたすら耽美で内省的な室内楽的音楽が、その後の自分のUSインディーロックへの傾倒につながっているのかもと今は思ってしまいますね。
しかしフォーク的な作風であるといえども、このサーストンのソロはシーチェンジとは幾分ベクトルの違った作品となっています。シーチェンジは当時失恋していたベックがその痛手を伝えようとしてその意識をひたすら内向的に向かわせていったアルバムでした。ゆえに耽美的というのがぴったりくる、全体的に暗い作風となっていました。
しかしこの『Demolished Thoughts』でサーストンが暗いメッセージを送っているかというとそんなことはなく、愛とか詩とか、まぁそんなことを歌っています。これはソニック・ユースにおいても同じで、彼らは歌詞において自分の内面を投影するということをあまりしない人達のようにこれまでの経験上思います。
ソニック・ユースが語られる際には、「ニルヴァーナに影響を与えた」「ノイズロックの帝王」という騒がしい一面をクローズアップするかのような形容詞が使われることが多いのですが*2、しかしそれと同じくらい重要なのが「妖しさ」としてのバンドの側面なんじゃないかなーと。『Daydream〜』でもteenage riot よりかはcandleのような幽玄な美しさをもつ曲の方を好みジム・オルーク在籍時の『Sonic Nurse』をベストとする自分からすれば、それは1stから彼らが持っていた特徴であり、そして"antenna"等の曲がある様に、今現在の活動にも確実に残存している部分だと思っています。
そしてその部分はこの『Demolished Thoughts』にも通ずるものであり、既存のフォークのフォーマットに胡坐をかかないで「揺らぎ」を重視しつつ前向きなメッセージを発しているのはソニック・ユースでの彼の姿と重なるものです。つまり、この作品はオルタナティヴ・ロックやってる人が疲れたからフォークに移行しているという類のものでは無く、彼の先鋭的な表現が行きついた場所であり、緩やかさをもちつつも緊張感のある音世界となっています。
オルタナティブ・ロックを最先端のカルチャーとして享受する向きも大分退潮しているのを感じておりますが、そんなのお構いなしに芯のブレない活動をしているのには頭が上がりません。こんな父親をもちたいものですね。
『Sea change』収録曲。バックを務めるのはフレーミング・リップス。最高。