原恵一監督『Colorful』

カラフル [DVD]

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何か俺中学のころから全然成長してないなーと実感。観終わった後も当時を思い出してしばらくヒリヒリしてました。

ストーリーとしては、「大きな罪を犯した」として死後の世界に行った主人公が天使(?)の導きによりもう一度元の世界に戻るチャンスを与えられる。それは自殺未遂を起こした中学生として暮らすことだった。その中学生「真」には崩壊した家庭、居場所のない学校しかなかった。しかしそこで過ごすうちに…というお話。

恐らくこの作品についてよく言われるであろうことは、プロの声優では無い人を使っていることによる声の稚拙さでしょう。これについては、原監督の前作『河童のクゥと夏休み』も何年か前にたまたま観た*1のですが、その時もこのような声の感じだったため監督の考えあってのところと推測されます。

『河童のクゥ〜』は観た時に「あーコレもうダメだわ」と思ったのを覚えています。何故なら声優が下手だから。当時アニメとかを観始めだった自分としてはやはり声の違和感が先立ってしまって内容云々ではなくなってしまいました。それまでトトロのお父さんとか何もなくみていたはずなのにね。

しかし今回に限っては、声優の経験が少ない人を採用したのは吉と出たと思います。あー中学生ってこんなもんだよなぁと親身になって共感することが出来たからです。中学生当時に大人たちどんだけ遅れてんだよダセーなーとか思いつつやってた会話がカセットなんかに残ってたりして、それを今聴きなおすとどっからどう見てもガキ過ぎて恥ずかしい、みたいな。そういうこっ恥ずい感じが拙い声が用いられていることで存分に表現されているなと。そしてそれはだれしもが通るあのほろ苦い思春期時代を追憶させ、このストーリーに重ね合わせるためのファンクションとなっています。

生活の描写も秀逸。関係が冷え切ってしまっていて軽蔑することしかできない親との関係は自分自身も経験したこともあって良心がキリキリしました。別に不倫してたとかではなくて、親は自分のこと分かってくんねーなーと思い心の内を明かすことが無くなってしまったという程度ですが。自分から要因を作ったとはいえ母親のあのシーンは不憫としか。普段ネットに転がっている不道徳な動画を観ることもある自分でも、不倫は絶対良くない!と痛感しましたよ。

また学校においても、居場所が無い感じだったり、スクールカーストがあって友達とうまく喋れない感じは最高。イジメ描写も、みていてなかなか心がチクっとするものでした。靴を奪われるシーンも、あー地元にあーいう怖い先輩いたし酷い目に遭った友達いたよなと。

しかしそんなリアルさがあるからこそその後の展開にある希望に説得力が出てきます。援助交際をしてる女の子の悩みなんかも歳をとった身からすればまぁそんなこともあるよね、程度のものですが実際自分が些細なことに悩んでいなかったかというとそんなこともなく、ジャンプの一番後ろに載ってる「思春期の悩み解決します」的な通販に心動かされてばかりいたようなダメ人間でした。そしてそんな人間のヒリヒリするような負の部分が主人公の台詞によって一つの結論に落ち着くことになります。一つにまとまらない自分を受け入れること、その言葉は子供だけでなく大人にも響いてくるものだと思います。

最後のシーンで、主人公はあんなに嫌がっていた母親の買ってきたダウンジャケットを着ているんですよね。成績がクラス最下位でも、人とうまく話せなくても、ヘンな趣味持ってても、とにかく生きていける世界だとすごくステキだなー。



さてさて、この映画を観たあと、何かこの感覚前に経験したことがあるんだよなと何となく感じていたのですが、よくよく考えてみると日本の誇るロックバンド、ブラッドサースティ・ブッチャーズの曲の情景にそっくりではないか!と気付きました。

歌が下手ですね。しかしこの青臭さを感じさせるサウンドはこのバンド以外には出せないですし、聴くたびにチャリで銚子大橋を渡っていたあの頃を思い出したりします。大いなる未完成。受験期はアホみたいに『Kocorono』を聴いていたな…

どちらも未成熟なまま、それでも必死に過ごしていたあの頃を想起させるという点で共通しています。そしてそのためには伝えたい感情と伝えるための技術が必要になりますが、それを両立させるのは至難の業でしょう。しかしそれでも伝えたいという思いが先立った時、感情が技術の不備を乗り越えて伝わってくるようなちょっとしたミラクルが起きる時もある。そんな瞬間にこれからの人生でも多く出会えたらなぁと思っています。

*1:深夜放送だったな…学生時代が懐かしい