幸村誠『ヴィンランド・サガ』(10)

ヴィンサガの新刊が出たよ!みんな買っちゃおう読んじゃおうそして泣いちゃおう。

ヴィンランド・サガ(10) (アフタヌーンKC)

ヴィンランド・サガ(10) (アフタヌーンKC)

最近映画にはまっているせいもあるのか、ますます大作映画じみてきていると思いました。歴史という壮大な物語の中で緻密な人物描写を描き、内的な問題を時空を超えてリアルに描くという手法が最新刊でも生きていて最高。クヌート覚醒時のような最大瞬間風速は無いものの、今回のトルフィンの「本当の戦士」への目覚めもしっかりとした手ごたえをもって読者である我々に伝わってきます。

とてもとても個人的な話ですが、わたくし現在新社会人真っ最中でございまして、職場に馴染むということだけにも命をかけたサバイバルの如く必死になって過ごしています。何とかして今自分が置かれている状況を飲みこもうとしている人間には福音のような物語でした。俺も戦わねば、とヘタレなりにも涙目ながら思う所です。

「何かのために戦う」というのはその目的が私たちの胸に迫ってくるものでなければ合理的なものとして捉えられるものとはなりません。ましてや、何となく幸せな日常が一番だよねーみたいな言説が心の根源に染み込んでいるような社会状況だったら、半端ない抵抗を食らうことになるでしょう。しかしそれでも何かを犠牲にしてでも目標を目指すという言葉に説得力を持たせている幸村先生の力量の素晴らしさたるや。

愛のために行動するようしていたらいつの間にか愛情とは縁遠い人間になってしまう、というジレンマは映画『愛のむきだし』にてゆらゆら帝国”空洞です”がフューチャーされていたことに象徴されていますが、このトルフィンの決意も素晴らしいものであるものの今後どうなっていくのかは分かりません。*1しかし私にとってその要素はむしろもっとこの話を読みたいという原動力に繋がっています。大学時代からリアルタイムで追ってきてよかったよかった。

やっぱ好きなのは元奴隷のパテールさんだね!彼は他の登場人物のように暴力をして戦うことをしませんが、しかし彼も社会の理不尽さに対して彼なりの方法で立ち向かおうとしています。彼の努力はコマの中でさらっと示されているに過ぎませんが、だからこそ奥底に秘めた力強さのようなものを感じさせてくれます。この、感情と技術が完全に合致した感覚よ!クリントイーストウッドか!

とにかく、今幸村先生の著作がリアルタイムで読める状況を幸福と言わずして何というのか!悪いこと言わないからとっとと読みましょう。特に人生に悩んでる人は。

*1:史実に基づいた話のため、友達は世界史的な結論を知っているらしい。日本史専攻で良かった