園子温監督『愛のむきだし』(上)(下)

こんにちは。

出来ればこのブログも週二位の頻度で更新していきたいと思ってはいるのですがなかなか…社会人になったとはいえそこまでブラックな待遇をされているわけではないと思うのですがとなると僕個人の怠慢ですかね…すいません。

さてさて、園子温監督『愛のむきだし』を観ました。

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評判にたがわぬ素晴らしい作品でした。4時間だからなんか観るのかったるそう…とヘタレなりに思っていたのですがいざ鑑賞してみると時間が過ぎるのが早い早い。堅苦しくなくエンタメに徹している所がいいのですが、それだけでなく虐待や宗教の問題を軽妙かつストーリーに不可欠な形で取り上げている所にすごく好感を抱きました。園監督の手腕すげえや。

まず前巻を観たとき、こんなに面白い映画があったのか!と素直に思いました。カトリックの神父ながら女性のいざこざで歪んでしまった父を受け入れようとする主人公の取る行動が「盗撮」というあれな方法ですし、実際に盗撮行為を行っている様の演出もやたらとオーバーアクションで全体的にコミック的でずっと笑ってしまいました。しかしそれでも各キャラクターが何故そのような行為をするに至ったかの「理由」について丹念に描いていていいなと。これの前に観た邦画が、何で登場人物がそういう行動をするのかさっぱり分からないという代物で大分ガッカリしていたところなので、このストーリーの丹念さに誠意を感じたのでとても嬉しかったです。*1

後半はあれですね、もう海のシーンに尽きる!*2満島ひかりにあんな風に凄まれたら道理だって引っ込んじゃいます。その後の割と従順な振る舞いにも疑念が出るレベルでしたね。

この映画を観て私は、これはドストエフスキーの『白痴』の先を目指してるのかな、と思いました。この映画で、安藤サクラ演じるコイケは圧倒的な存在感を持った悪役として迫ってくるのですが、その姿は『白痴』でのロゴージンと重なります。さらに父のために「罪」をせっせと持ってくる主人公の瞳は純真そのもので、ムイシュキン公爵に近いと感じます。*3そして新興宗教施設でのシーンは善と悪が同根であり、それが交じりあって全てが無になるという混沌とした状態が示されています。

『白痴』はここで終わりますが、『愛のむきだし』では終章という形でその後が描かれています。その結末はやや出来過ぎともいえるものですが、しかし希望があります。これをどう評価するか。多分エンタメ映画としてこの映画はこの結末を選んだんだろうなと思います。その一貫した信念は素晴らしい。

聖と俗、欲望と清貧、善と悪、エログロ等様々な要素を含みながら観客を飽きさせないよううまくまとめたこの映画を批判するのは難しいのですが、一つ言わせてもらうなら音楽の使い方がメリハリが無かったのではないかなと。ゆら帝の個性的な音楽をフューチャーしても映画単体で負けていない時点で素晴らしいのですが、BGMが垂れ流しで使われている場面が多々ありちょっと違和感を覚えました。無音でも映画を成り立たせるだけの画としての力がある映画だっただけにもっとストイックになってもよかったのでは…。

しかしとにかく素晴らしい映画です。四時間ほど暇がある方は是非。

*1:最大限に悲しいシーンで『オンリー・ユー』を流す映画なんか滅んでしまえ!

*2:完全に余談ですが風車といい防波堤の形といいあの海絶対に僕の地元である波崎海岸です

*3:最近観た映画の中では『母なる証明』でのウォンビンがそう。男の自分でさえ「あーこれは囲ってあげたくなるわ」と思ったので、韓流スターに目が無い淑女はどれほど母性本能をくすぐられたかは想像を絶する