Radiohead『King of Limbs』

ここ何作か映画関連のエントリーが続いていたので今回は久々に音楽の話でも。

The King of Limbs

The King of Limbs

言わずと知れたバンドであるレディオヘッドの、三年ぶりのアルバムですね。自分は今回CDで買いましたが、音源自体はバンドの意向により既にMP3の形で販売されていました。

その時点でyoutubeに流れていた音源なんかは聴いていました。そこでその時思ったのが「レディヘこれは久々に来たな」ということでした。『イン・レインボウズ』やトムのソロには「なんかぬるい音楽やるバンドになっちゃったなー」と思っていたものですが、これを聴いた時はこれまでのレディヘと違う新しさを感じたものでしたので、海外でもこのアルバムが『キッドA2』と呼ばれているのも個人的にはかなり納得のいくものでした。アルバムが聴かれ始めた時のロックリスナーの方々の反応も結構な衝撃を受けたように見えましたし。

その後このアルバムがピッチフォークで「彼らの過去の偉大なる遺物と並ぶ作品では無い」ものとして8点以下をつけられたり、風評としてもそこまでの作品では無いな…という意見が多々聴かれるようになりました。実際米アマゾンのページを見てもレビューは数が多く書かれていませんし評価もやや低めです。*1

そして四月にCDとして発売されたので買ってみて聴いてみました。PCで聴く時とは違った面も聴こえるようにはなりましたがしかしこれは結構な作品だという感想は変わるものではありません。

以下一曲ごとの感想を。

1)Bloom 最初聴いた時は、いきなりの不安定なリズムで挿入されるドラムのパターンに衝撃を受けました。これまんまフライングロータスじゃんかと。その不安定さを保ったまま音が重なっていき最後まで突っ切る。とても印象的なオープニングナンバーとなっていてとてもいい。
2)Morning Mr Magpie 前曲の印象を引きずったままでいるといきなりミュート気味のギターの小気味いいリフが入ってきます。ミニマムながら各楽器のリズムの構成で聴かせる佳曲。
3)Little By Little この曲がこのアルバムが否定される時に言われるような弱点を象徴している気がする。最初聞いた時は「おーレディヘスマートな曲書いてくるねぇ」と思ったのですがいざがっつり聴いてみるとギターのリフが延々と繰り返されていて、それがミニマルな美しさを持つというよりかは若干間延びして聴こえてしまう。ちょっと形骸的とも取れてしまう曲。
4)Feral アルバムのリズムパートの終わりにふさわしい曲。カチャカチャとなる楽器群が気持ちいいし、フライングロータスあるいはダブステップの影響が大きく見られるナンバーなのでは。
5)Lotus Flower 「レディヘポップのリノベーションが起きた」とも言われています。この曲大好き。ニカっぽい質感の音をレディヘマナーで再現してくれたのが嬉しいし、元ニカ厨としても久々に長めに聴けそうなエレクトロニカが登場してくれたと思う。
6)Codex 神妙に鳴るピアノの音が美しい曲。レディヘの曲で言えば「ピラミッドソング」に近いとも思われますが、あの鬱々とした感じとは離れていて、暗い気持ちにならずに素直に美しいまま聴けるのでいい。このアルバムは後半の曲も粒ぞろいで素晴らしい。
7)Give Up The Ghost アコギの音を中心に進んでいく曲。前曲に続きリラックスした状態で聴くことが出来ます。シンプルな音ながらトムの声など間違いなくこれレディヘの曲だわーという特徴を持っている。ライブで聴きたいな。
8)Separatar 最後の曲はまたちょっとブレイクビーツっぽいループが使われていてダブステップっぽい。軽妙な感じでしめられるのが乙ですね。ウェイクミーアップ。爽やかエンド。


全体の感想といたしましては、当初は鬼のようにカッコいいアルバムだと思っていたものの、イヤホンなんかでしっかり聴くようになって確かに完璧なアルバムではないなーと思うようになったというのが正直なところ。

しかしそれでもこれまでのレディオヘッドの作品に横たわっていた新しい手法に乗り出した実験精神は確かに感じられますし、その上で一曲一曲それぞれ曲として聴かせるような高い完成度にまとめてきたのはすごいと思います。個人的に、レディヘの中でこれだけのフレッシュさを感じたのはラジオで「ゼア・ゼア」が流れてきたのを聴いて以来です。

この作品を『キッドA』と比べてみると分かりやすいかもしれません。『キッドA』ではそれまでのロック路線から離れていきなりエレクトロニクスに手を出したのが大きな衝撃として捉えられました。今のUSインディーロックを牛耳っているメディアといっても過言ではないピッチフォークでも栄えある10点満点を獲得しています。

でも今『キッドA』を聴きなおしてみると、そこまで完璧な作品かな…という思いを持ってしまう所があるのが正直なところ。エレクトロな部分はまんまオウテカですし大胆に電子音を導入しているのは1、2曲目と『イディオテック』だけであとの曲はいい曲ではあるにしろ『OKコンピューター』に入っていてもそんなに違和感は無い位の曲ではないでしょうか。

つまり、革新性は両者のアルバムとも持っており、それまでのイメージとの差から評価されている感じを受けます。そしてその差は点数として今回具体的に表されてしまったと。しかしアルバム単体で見るとそこまで完成度の差は無いしこの新譜だってもうちょい点数があってもいいんじゃないかな…と思うのが正直なところです。

『キッドA』の曲群はライブで大胆なアレンジを施されて、ライブ中でもかなり盛り上がる曲となることが多いです。そしてこの新譜の曲達もそうなる予感が何となくするので来日公演があったらぜひ行きたいなと思っています。*2そんな風に思わせてくれる素晴らしいアルバム。個人的に大好きです。

*1:これまでの評価が異常だったしアマゾン黎明期とは違いレビュー書く人自体も少なくなってきている、という要素はあるにしても

*2:ドラムが難しそう。フィルがんばれ