『ソーシャル・ネットワーク』

やっほーK見てるー?約束通り感想書くからねー。

かなり評判がいいということで、『ソーシャル・ネットワーク』を見に行ってきました。

いやー面白かった!新しいネットワーキングサービスを成功させた男の人生譚というだけでなく、それを成功させるに至ったアメリカ社会の当時の実態やアメリカのネット社会の空気感がどんな感じか伝わってきました。なので日本に住む自分としても、これ分かるわーといった部分とへーアメリカではこうなってんだという部分が両方あり、その中で古典的とも言っていいような人間ドラマが展開されていくので、複合的な要素で構成されながらも観てて単純に楽しい映画でした。

主人公の男が彼女を相手に長々と自説を展開するシーンから入ったときは「うわーこの主人公無理そう。コレは失敗だったかも」と思いましたが、その後の展開にぐいぐい引き込まれていってしまった。

ネット社会が題材ということで具体的にどんな感じなのかなと思ってたんですが、大学で全くモテなくてハーバードの由緒あるクラブに所属している奴らに鬱屈してたりするところは日本の現況と全く変わらないな…と思うところがある一方で、エンジニアとかがみんなで一緒に住んで毎日大音量でスピーカー鳴らしてパーティーしたりしつつサイト運営してる…といった所はさすがアメリカここは違うなと。どれぐらい誇張しているのかは分かりませんが、すーっと全体のシーンに入ることができ楽しめた感じです。

特筆すべきは音楽。劇場音楽を担当したのはNine Inch Nailsトレント・レズナーなんですが

言わずと知れた90年代オルタナティブ・ロックのスーパースターですね。手っ取り早く言うとデジタルを基調としたビートやノイズにハードなギターを絡ませてサウンドを作り、病んでるっぽい感じで「お前ら全員死ね!」とか言ってたような人ですはい短い説明終わり。

NINの音楽を説明する際に、よく「インダストリアル」という言葉が使われます。これは「工業的」という意味が示すとおり、冷蔵庫のブーンといった音や大型の機械が冷徹に同じ動作をし続けるときの音のような、いかにも聴いてて体に悪影響を及ぼしそうな無機質な音で非人間的な印象を受けるサウンドのことですね。これを大音量で流しつつ社会に対する不満や自分の暗い部分を叫んだりしてます。

で何が言いたいのかというと、そのインダストリアルな音楽をやってきたトレントが作った音楽と、この映画の雰囲気が最高に合致していたということです。最初の二人の言い争いのシーンの後、夜の街をなめ回すようなシーンに移ります。ここでやっとしゃべくり倒すあいつから解放されたと思ってじっくり風景をみるような心持ちになることができますが、ここでかかるのがそのトレントの曲でした。生演奏と思われる繊細なピアノのフレーズにいかにも彼らしい無機質のノイズが被さってくるところで完全にやられました。美しさを感じさせながらもどこか不安さを感じさせるのにはこれ以上ない音。

そして、この音のイメージはこの映画のテーマに通底するものだと思います。「フェイスブック」というSNSは、最先端のテクノロジーを扱いながらもやってることは人間関係の取り持ちという、ある種これまでの人間が行ってきた営みの再構成をやってる感じ、もっと言えば最新の科学というよりも女性と出会いたいというどうしようもない欲求からニーズが出ているという目も蓋もない感が強いです。そしてネット上で人間関係を新しく作るという時には、希望とある種の不安(というか胡散臭さ)があると思います。これはまさしく音楽が表現する「機械的なバックグラウンドの上に感情を置いたときの不安さ」とリンクするものだと感じます。

また、この音像は映画の構成そのものにも深く関わっているものでしょう。ハッキングやプログラミングなどコンピューター社会のディテールを多く取り入れながら、主に主題となっているのは主人公を取り巻く人間関係についてでしかありません。フラれた彼女に再びうまく声をかけられなかったり、一緒にサイトを立ち上げた仲間とうまくいかなかったりして主人公は悩み続けているところはそう目新しい題材ではないと言えるでしょう。情報化社会においても人はナイーヴな所で悩み続けていてそれは今後も変わらないんだ、というのがこの映画のメッセージっちゃあメッセージなのかなと。*1

総じて言えることは、トレントを起用したデビット・フィンチャーの意図はずばり的中だったと。また、この映画からハーバード大のコミュニティの実態やエンジニアーの集まる家の様子等々抜き出せる文化的現象はかなり多いので、文化や社会学系の学に興味がある人なら興味深い所は多いんじゃないかなと思いました。何にせよチケット代分は余裕で楽しめる娯楽作品だったので観に行って良かったです。

最後に、劇中でちょっとかかってテンションがあがった曲を。80年代アメリカのパンクバンド、デットケネディーズ*2の代表曲で、ガツンときながらもアホっぽい感じが最高。しかし合唱隊によるレディオヘッドの「クリープ」って何で流れなかったの?楽しみにしてたのに。

*1:この部分は『電脳コイル』に通じる

*2:凄い名前だ