光原伸『アウターゾーン リ:ビジテッド』
アウターゾーン リ:ビジテッド 1 (集英社ホームコミックス)
- 作者: 光原伸
- 出版社/メーカー: ホーム社
- 発売日: 2012/12/19
- メディア: コミック
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例えば少年ジャンプで連載していた当時の話で挙げるなら、「フォーチュンペンダント」は自分が幸福になるペンダントが実は周りを不幸にしている魔性の物品だという話だが、それは自分の心の奥底に同様の事態が現実にも多々あるという人生訓として流れている。そして初期の名作として名高い「わしはサンタじゃ!」は子供のころからずっと好きだったし、大人となった今読み返しても独特の感傷をどうしても受けてしまう。子供のころに触れた作品を改めて振り返ってみるとまるでその文脈のままに人生を歩んできてしまったかのような感覚を受ける時があるが、今作も自分にとっての青写真であるかのように重要な作品だ。
『アウターゾーン』が当時小学生だった自分に大きな影響を与えた点は「人々が表立って称賛しないマイナーな領域にも楽しみは多くある」ということを教示してくれたことだと思う。この漫画が親の趣味で家の本棚にあったせいで、同世代の皆がジャンプでは飛ばして読むような作品*1に面白味を見出すようになった。そしてセクシー描写や後味の悪い悪趣味な物語展開を分かったふりして背伸びしたつもりになりつつ、その実スプラッター表現を含むホラー(タクシー強盗のやつとか未だにトラウマ)には心底ビビっていた。その内にスラムダンクやドラゴンボールといった王道漫画に通じることがないまま少年時代を過ごしたのは正直後悔しないでもない。そしてそのお蔭もあってかその少年は青年になるにつれて後サブカルや匿名掲示板というまたよく分からない海へ向かうことになってしまった。
時折挟まれるSF作品にはバッドエンドあるいは空虚感が伴うものが多いが、それは星新一や藤子・F・不二雄といった先達から受け継がれてきたものだと知るようになれたのは成長するにしたがって得ることができた数少ない収穫だと思う。色んなものの遺伝子は隠れて流入されるものなんだろう。
今回17年ぶりの単行本化ということだけれども、色々不安が無かった訳ではなかった。というか復活ならば知っている限りで言えば2005年に一度、文庫本の番外編という形で行われている。その時はストーリーが殆ど無いミザリーさん萌えのための短編だったため印象に残ることが少なく、むしろ物語が書けなくなってしまったのではないかと心なしか危惧してしまうところがありました。しかし今回、蓋を開けてみればどの作品を取っても当時の雰囲気に満ちており、また絵柄に関しても今風の画とは一線を画していながらも今の漫画好きにも面白いと思ってもらえる訴求力を持っています。というかミザリーさんが未だにセクシーなのがリビドー云々を差し置いてこんなにも素直に嬉しいとは!噂では『アウターゾーン』終了後地元にて飲食店を経営していたとのことだが、今作はそんなブランクを感じさせない出来となっており、作者が未だに優れた漫画家であると信頼させてくれる。後味の悪さ、B級映画等の影響からくる悪趣味さ*2もまだまだ気概があるところを感じさせてくれ嬉しい限り。
週刊連載当時は物語の結末に悩むことも多く徹夜作業も厭わなかったとのことですが、願わくば今後も息の長い活動をしてもらえればと思います。かつて軽妙なタッチで奥深いマイナー世界へ誘う入口であったこの作品が、2012年の今になっても存在していることが心の支えになっている人間がここにいますから。時に残酷で時に心温まるユニークな世界を知り尽くした語り部を、私はいい大人になってもまだ必要としているのだと思う。
ところで
- 作者: 荒木飛呂彦
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2011/06/17
- メディア: 新書
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