瀬戸内国際芸術祭(2日目)


遅くなりましたが、3月に参加した瀬戸内国際芸術祭、二日目の様子です。前日は残念ながら曇天のために完璧なロケーションのもと芸術作品を観ることが叶わなかったのですが、二日目は幸運にも晴天に恵まれ、瀬戸内海の雰囲気を100%満喫することができました。また実際に巡ったのが前情報から本命と決めていた芸術作品が多かった豊島であったためか、実際に観て印象深かった作品が多かったです。

二日目小豆島の宿にて起床。まだ早朝でフェリーの到着まで時間があったので国道を中心に島の中を散策することに。しかし歩いてみると家は密集しているはコンビニとか生活に必要な店は大体あるは(パソコン教室が普通にあった!)で、島といえども関東地区の一地方と同じぐらいの生活圏ができてるんだな、と不思議な感覚にとらえわれかつ先入観を持っていたことを反省することしきり。フェリーで数十分すれば高松に行けるんだから当たり前なんだろうけど、旅館のテレビつければ普通に関西圏のチャンネルが映るとことか、シムシティで言うと中心地区に近いせいで発電所とか建設して発達しまくる島部分みたいなものかな、と思った。



朝食を食べて旅館に別れを告げ、目の前の土庄フェリーターミナルへ。島を歩いているときも感じたのだけど、何かゴマを炒ったような匂いがしているなぁ、と思ってたらスーパーでよく見るごま油のメーカー、かどやのロゴが貼ってある工場が!調べてみたらあのごま油を製造している工場は昔から小豆島に置いてあるそうで*1。意外なところで思わぬ発見が。写真の「太陽の贈り物」は海をバックに設置されていてなかなか存在感があった。小豆島にはその他にも「小豆島の光」とか面白そうな作品があるらしいのだけど、今回は巡ることができなかったので残念。あの迷路のような街並みの感じはとても好きだったのでいつかまた来てじっくりみてみたい。


フェリーに乗って豊島は家浦港に到着。そしてすぐさま目の前のガソリンスタンド屋さんでチャリを借りた。本部インフォメーションの目の前にあるレンタサイクルも考えたけれど電動式でちょっと面白くないし時間制限が厳しめだったので、普通のチャリが一日借りられるこちらで豊島を回る。にしてもここの街並みも風情が合っていいですね。落ち着いた黒茶の色には統一感があり、この地域が持っているアート系イベントとの親和性を感じさせます。


豊島の漁港にて野良猫の懐柔に成功したであります!トルコのイスタンブール行った時も思ったけど、猫や犬がのんびり過ごせている地域ってそれだけで魅力的に感じてしまう。何だかその地域の生活感を測る指標のように捉えてしまっているなぁ。


今回目玉の一つだった豊島横尾館はまだ建設中。がっくし。


家浦港からついてすぐのところにある、トビアス・レーベルガ―作「あなたが愛するものは、あなたを泣かせもする」。空き家をレストランに改築したこの作品、島の風情に合う黒い木の古い部分と、アートが持つ斬新な部分が不思議に調和していて面白かった。



内装は線の間隔の配置を微妙にずらすなどするなど通常ではありえない感覚で変化しており、エッシャーのだまし絵のようにこちらの遠近感を破壊してくる。一見オシャレでありながらその実某ホラー漫画家の邸宅よりも内部に暴力性を秘めているのかもしれない。表と裏が常にひっくり返る楽しさはあるけれど、もし子どもを持った時2階をこんな風にされたらグーで殴るしかないのだろうか。何にせよ学のない私は「アートだわぁ…」とつぶやかずにはいられませんでしたわ。

チャリで唐櫃岡・唐櫃浜方面へ。しかし思った以上にアップダウンがきつい…ガソリンスタンドのおばちゃんに「この島回るのは苦労するわよー」と忠告されたにも関わらずそんなんクロスバイクで80㎞とか走ってる俺からすればチャラヘッチャラですよ!と言わんばかりに悠々と発進した1時間前の俺のバカバカ、とか思いつつ坂を登る。


道の途中にあった"Big Bumbu"。何かこれ見覚えあるなーと思ったらフジロックのボードウォークか、と思い出した。友達が野外イベント開催してフジのアート感覚そのままに会場設置してた時も思ったけど、フジロックってアートを身近なところへ持ってくることに成功してるんだな。


島キッチン、開放的なレストランとあって期待していたのだけれど木が枯れてるしこの時は曇天だったし何より混んでて30分以上待たされてその後の計画が狂いまくったため微妙な印象。ただ地元の女性(と思われる)方々を雇い運営を行っているのは好感が持てました。


豊島の至るところでこういう石垣の組み方をしていて珍しいと思った。人文系出身なのでニュートラルな印象を与える最新のアート以上に、人々の生活感や歴史が伝わってくる細部の技術が好きなのかもしれない。こうしたフェスティバルを通じて見知らぬ土地の歴史に自然と興味が湧いてくるのであれば、イベントは成功といってもいいのではないでしょうか。(経済的には知らない)


豊島美術館へチャリで向かう道すがらに、この日のベストシーンが。必死にチャリを漕いでいたら目の前には瀬戸内海の海が…!最高の景色のもとで行うサイクリングは素晴らしすぎて、帰った後この感覚を周りの人と共有できない孤独感が募ってしまうほどでした。晴天の瀬戸内海は天国に最も近い場所なのかもしれない。絶対にまた来ようと思った。

豊島美術館は撮影禁止、ということだったので写真はないのですが、美術館を象徴しているともいえる内藤礼作「母型」は素晴らしかったです。穴の開いた、大きな白いドーム形の建築の中では水滴が人には気づかないような微妙な傾斜や風の動きによって静かに移動していき、次第に大きな泉へと合流していく。その動きはまるで人々の魂の動きのようでもありました。辿る道は異なり、合流する(出会う)流れも異なれど、結局は最後に目指すところは同じ。たまに軌道からはぐれて溜まっていものはそこに留まろうとする群れのようでもありました。違う場所に生まれ、一つの目標に流れてとどまり接収され再び生産される。そこにあるのは流れのみなのかもしれない。


豊島美術館から再び東、唐櫃浜へ。こういう青カンがある景色っていいよね!


豊島の形をかたどったバスケットボールのゴールは地域の集会所にありました。すぐそばにボールを詰めたカゴがあり、誰でもバスケがプレイできる。チャレンジしてみたけど一番上のゴールに入れることはできませんでしたとさ。しかしまー楽しかった。


『心臓音のアーカイヴ』を体験したあとは再びチャリで甲生地区へ。この辺も傾斜がきつい…この辺りの島は港があったかと思って振り向けば島中央に高い山があって、ただっぴろい関東平野の港町出身現山間部住まいの自分からすれば何だか不思議な感じがする場所でした。


「君が!泣くまで!上り坂をやめないっ!」(島全体の声)


甲生に到着。そしてすぐに今回の芸術祭で一番観たかったこの作品へ。塩田千春作「遠い記憶」。島の中で集めた古い木材を基に作られたトンネル。かつて人々によって使用され、意味づけられた部品たち。

マッシュアップされるかつての人々の記憶。そこをくぐりぬけた時、人は何を感じるのだろうか?という強い興味をもって今回の芸術祭に臨んだのだけれど、一つひとつの部品からその歴史が断片的に伝わってきました。細部を通じてかつての島全体の様子を示唆するという手法は、古い建築を資源としたアートと相性がバッチリ。部外者の私にも歴史を僅かに感じさせてもらえるという贅沢をさせていただきました。


ちょっと移動したとこにある港に展示(係留)されていたのがこちらの鏡張りにされた漁船。波が自身をもって船にその証しを刻み込んでいくなか、船と波は相互に影響を及ぼしあっていく。周りの海面を反映しつづけるこの船は、さながら海と船が一体であることを示しているのかもしれないなー、と何となく思いました。


古い家の中で制作されたモチーフ。漁師網等をつかってまるで一つの生き物のように創られたこれはこの地域の根底に流れるものを表している。その後ろでは、家の壁に直接プロジェクターにて地域の人が語る様子が投影されていて、それがまるで家全体が語っているかのようですごく生々しかった。この手法、とても有効なので同じような別の場所でもどんどん使うべきだと思う。

甲生地区を後にし、あとはひたすら家浦へ戻る道をチャリで突き進んだ。


到着。そして待合室でぼけーっとすること数時間後、フェリーに乗って宇野へ。



さようなら美しすぎる瀬戸内海。また会う日まで。

といった感じで宇野から岡山まで電車で戻り、新幹線で東京、高速バスのラストでつくばに戻り、次の日の朝には私は職場で仕事をしておりましたとさ。いいんです帰るところがあることは幸せなことだから。しかし前の日の夕方には瀬戸内海上をフェリーで揺られていたというのに、遠く離れたオフィスであくせくしている感覚が不思議でしょうがなかった。


というわけで今回の瀬戸内国際芸術祭への参加は、大変充実した小旅行となったのでした。アートとかに疎い私でもそれなりに楽しめたので、アートとしても間口の広いイベントなのではないでしょうか。フェリーでの移動は時間がかなりシビアなため、公式ガイドブックとにらめっこすることが必須となってしまいますが、それでも各島々を巡る楽しさがあって良いです。また、当初危惧していた「アート作品の設置が先走っていて、地域住民の姿が見えない独りよがりのイベントになってしまっているのではないか」という問題は、実際に島に行ってみると杞憂だったことがわかりました。これは各アーティストがその地域についてをテーマとした作品を創っていることが多く、今の姿を通してかつての島の姿を示すような作品が多かったからだと思います。一サイクリストとしては、晴れた日ならサイクリングで回ることがおすすめしますよ!自分のロード/クロスバイクを高松か宇野に送っといて、フェリーで島に持ち込むのもいいかもしれません。瀬戸内海を横目にしつつペダルを漕ぐ快感は何にも代えがたいもの。あの体験ができただけでも参加した価値はあったイベントでした。